広報こしがや

2007年06月01日

No.427 より安全になった冠動脈造影 -64列マルチスライスCT- 埼玉東部循環器病院 李 武志

三大成人病の一つである心臓病のうち、冠動脈疾患は最も罹患りかん率の多い病気です。心臓は心筋と呼ばれる筋肉の塊で、心筋に酸素のとけた血液を運ぶのが冠動脈です。成人の突然死の過半数を占める急性心筋梗塞こうそくは、この冠動脈が閉塞し、心筋が壊死えしすることにより心機能障害をおこす疾患で、約10謾の方が亡くなります。この前段階の狭窄きょうさくのある状態が狭心症です。この狭心症のうちに診断され、治療を受ければ、突然死に陥ることを免れることができます。
狭心症の診断で最も重要なのは症状です。胸痛、胸部圧迫感、しめつけ感、動悸どうき等があれば、是非かかりつけの先生や専門医に相談してください。最終的な診断は、冠動脈造影によって行われます。従来冠動脈造影は心臓カテーテル検査をしなければなりませんでしたが、この検査は体の心血管内にカテーテルを挿入するため、わずかな頻度ですが脳梗塞、仮性動脈瘤りゅう、穿刺せんし動脈閉塞等の合併症がありました。しかし、今注目されている64列マルチスライスCTにより、より安全に冠動脈造影ができるようになりました。64列マルチスライスCTは、造影剤の静脈注射は行いますが、体内にカテーテルを挿入する必要がないため、侵襲しんしゅうが非常に少なく心臓カテーテル検査でおこる合併症はなくなりました。撮影時間は10秒弱と極めて短時間で、放射線被爆も少なく、費用もあまりかかりません。一方、解像度は心臓カテーテル検査に比べ若干落ちますが、診断には十分な情報が得られます。
急性心筋梗塞になり助かった患者さんのお話を聞きますと、以前に何の症状もなく医療機関にも通院していなかった人が約半数いました。すなわち、急性心筋梗塞をおこす危険性のある冠動脈の狭窄があっても、症状がない場合が多いということです。その意味で高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などの危険因子を持つ方には心臓ドックが必要であると考えられます。今後、64列マルチスライスCTは、狭心症の確定診断にだけでなく、心臓ドックの分野でも利用されてくると思います。

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