広報こしがや

2011年06月01日

No.475 肛門と大腸のはなし 新越谷肛門胃腸クリニック 山本 哲久

おしりは他人には見せたくない場所です。だから、受診が遅れてしまいがちです。私も医学生時代にお尻が痛くて受診したとき、カーテンごしに他の患者さんにも見られそうで恥ずかしい思いをしました。でも、毎日口から食べたものが出てくれる場所ですので大切です。かのナポレオンや松尾芭蕉も悩んでいた人類古来からの場所です。婦人科の診察と違って、寝そべった姿勢で診察する病院も増えてきたので、恥ずかしがらず受診しましょう。
痛み、出血、いぼ、かゆみ、ひどい便秘、下痢など症状は多彩ですが、単に「痔だろう」と済ませてはいけません。大腸がんやポリープ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)が隠れていることもあります。食べたものが出てくる場所ですから腸の病気のバロメータでもあります。
疾患として一番多いのはやはり「痔」ですが、それでも外痔核、内痔核(いぼ痔)、裂肛(きれ痔)、痔瘻といろいろあります。「痔」という同じ病名でも病態が違えば治療法もそれぞれ異なります。最近はインターネットで調べて「痔瘻だと思う」と自ら正しい診断をされて来院される患者さんも稀にいますが、逆に情報が氾濫して混乱している患者さんの方が多いです。生兵法は怪我の元です。「痔だ」と放っておいたが、だんだん悪くなるので受診してみたら大腸進行がんであったということもよくあります。早期に診断し、早期がんやポリープの状態であれば内視鏡で治療が完了するので、早めの受診が大切です。
受診を遅らせる要因には、羞恥心の他に「痔の治療は痛い」という伝説や、「産婦の宿命」などあるでしょう。「産婦の宿命」とは、妊娠や分娩を契機に痔が悪化しても、産後は授乳や育児が忙しいため自分の治療をする時間などなく、子供が成長してようやく自分の時間がつくれるころにはかなり進行したものになってしまうというものです。最新の治療として、痔を切らずに注射で治す方法がテレビでも取り上げるようになりました。「痔の治療は痛い」という伝説はまさに伝説になったようです。

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