広報こしがや

1998年04月01日

No.297 手術中の迅速病理診断 森 吉臣

「お願いします外外科Aさんの胃の切離断端とリンパ節です」
「はい外わかりました」
手術室からの検体を受け取って、これから迅速病理診断の始まりである。
ピーンと緊張感が漂う。病理医は病変の性状や標本の方向など即座に判断し、必要な部位を切り出す。細胞検査士は迅速細胞診用にスライドガラスを検体に数 回ずつタッチしていく。これで数百から数千の細胞が付着しているはずである。今度は他の臨床検査技師がその面が標本になるようプラスチック皿に載せ、包埋 液ですきまを満たす。これを炭酸ガスボンベに接続された小さな鉄のケースにセットして、ボンベの栓をゆるめると「シュー」とすごい音とともに、ケース横の 数個の穴から白い霧状のガスが勢いよく噴出する。30秒後に取り出して、凍結具合を確認する。「よし外」のかけ声で、手早く凍結切片作製装置にセットす る。ここまでに2分が経過している。この装置の中はマイナス20度に冷却され、凍結検体をセットすると、この部分を照明が浮かびあがらせる。ハンドルを回 すと鋭利なナイフが検体を薄く切っていく。ひらひらと揺れる4ミクロンの薄い凍結した切片をすくってスライドガラスにはり付ける。熟練のいる仕事である。 直ちに2種類の染色液で切片を手際よく染めていく。赤く鮮やかに染色された切片に封入剤、カバーガラスを載せて完成である。小走りに検鏡室に持って行く と、病理医が直ちに顕微鏡を覗(のぞ)く。最も緊張する一瞬である。そのとき『リーン』っと部屋の電話が鳴る。先程の細胞検査士からである。リンパ節は陰 性、切離断端からは悪性細胞が検出された旨の報告である。そのとき、顕微鏡からのテレビモニターには断端部からの癌(がん)細胞が鮮やかに映しだされてい る。迅速病理と細胞診断が完全に一致した。検体を受け取って7分が経過している。病理医は手術を中断して返事を待つ外科医に報告すべく、インターホンの受 話器を持ち上げた・・・。
これで胃切除範囲がやや拡大されるが癌は完全に摘出されるはずである。このように完璧(かんぺき)をきするために手術中にも病理による迅速診断が行われている。

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